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静岡地方裁判所 平成4年(行ウ)9号 判決

原告 ヤマザキ・シー・エー株式会社

被告 浜松西税務署長

訴訟代理人 東亜由美 高野博 鈴木朝夫 森健 ほか二名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告が平成二年一二月一七日付けでした原告の平成元年四月一日から平成二年三月三一日までの事業年度に係る法人税の更正(異議決定により一部取り消された後のもの)のうち、所得金額三億四五九〇万六一七五円、納付すべき税額一億三〇〇三万五六〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告の係争事業年度の法人税に係る税額の算出に当たって、(一) 原告が係争事業年度中に消費税を含め二〇万円以上の価額(消費税を除くと二〇万円未満の価額)で購入した減価償却資産につき、法人税法施行令一三三条による取得価額の損金算入をすることができるかどうか、(二) 原告が取引先店舗の開店に当たって贈呈した花輪または生花に係る贈呈費用が交際費に当たるかどうか、が争われた事案である。

一  争いのない事実等

(末尾に証拠等の掲記のない事実は、当事者間に争いがない。)

1  原告の地位

原告(平成四年四月一日商号変更前の旧商号は山崎工業株式会社)は、冷凍冷蔵設備の設計施工等の事業(以下「冷凍設備等の工事業」という。)を営む資本金三〇〇〇万円の株式会社で、法人税法(以下単に「法」という。)二条一〇号の同族会社に当たるものである。

2  本件課税処分の経緯

原告の平成元年四月一日から平成二年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、原告が被告に対してした確定申告(青色申告)、被告がした更正及び過少申告加算税賦課決定並びに原告がした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は別表記載のとおりである(以下、右確定申告、更正、過少申告加算税賦課決定(更正及び過少申告加算税賦課決定についてはいずれも異議決定により一部取り消された後のもの)を、それぞれ「本件確定申告」、「本件更正」、「本件賦課決定」といい、本件更正と本件賦課決定とを併せて「本件課税処分」という。)。

3  原告の減価償却資産の取得及び損金処理

原告は、平成二年三月、中野冷機株式会社から、オープンショーケースBIM三―一〇五型一〇台を一台当たり二〇万三四四八円(消費税五九二五円を含む。)の価額で、オープンショーケースBIF三―一〇五型二〇台を一台当たり二〇万三七七九円(消費税五九三五円を含む。)の価額でそれぞれ購入取得し、原告の事業の用に供した(以下、右各ショーケースを併せて「本件ショーケース」という。)。

そして、原告は、法人税法施行令(以下、単に「施行令」という。)一三三条の適用上、本件ショーケースの取得価額は消費税を含まない価額であっていずれも二〇万円未満であるとして、本件事業年度においてその取得価額合計六一一万〇〇六〇円全額を損金経理した上、本件確定申告における所得の計算上損金に算入した。

4  原告の経理処理における消費税の扱い

(一) 本件確定申告に係る申告書(以下「本件確定申告書」という。)に添付された原告の営業成績報告書所収の損益計算書は、売上等の収益の額も、一般管理販売費等の費用の額も、ともに消費税相当額を含んだ額でそれぞれの金額が計算された上、申告納付すべき消費税相当額が一般管理販売費のうちの諸税公課中に計上されており、また、本件課税処分に係る当初調査時である平成二年一〇月一五日及び同月一六日に原告が被告所部職員に提示した原告の総勘定元帳も、消費税相当額を含んだ額でそれぞれの金額が記帳されていた。

(二) 原告は、平成二年一〇月二二日の取締役会決議によるものとして、本件事業年度につき、期末一括税抜処理によりそれぞれの金額を消費税を含まない額に改めた総勘定元帳を作成した上、従前の総勘定元帳を処分するとともに、同年一一月二日、被告に対し、本件確定申告書に添付された営業成績報告書を、新たに作成したそれぞれの金額を消費税を含まない額とした損益計算書を含む営業成績報告書に差し替えるよう申し出た。(乙第五、第六号証、弁論の全趣旨)

5  原告の本件花輪代の支出及び損金処理

原告は、本件事業年度において、冷凍設備等の設置工事を行なった相手先店舗のうち約四〇店舗に対し、開店祝いの花輪又は生花(以下「花輪等」という。)を贈呈し、その購入代金として合計四九万三四七二円を支出したが(以下、右支出を「本件花輪代」という。)、本件確定申告における所得の計算上、本件花輪代は広告宣伝費に当たるものとして、これを全額損金に算入した。(花輪等を贈呈した店舗の数につき証人山崎昭哉の証言、弁論の全趣旨)

二  争点

1  被告が本訴において主張する原告の本件事業年度の所得金額は三億五二三六万八五三七円、法六七条所定の留保金額が留保控除額を超える部分の金額(以下「課税留保金額」という。)は四二七八万四〇〇〇円であり、その算出過程として主張するところは次のとおりである。

(一) 所得金額 三億五二三六万八五三七円

本件確定申告に係る所得金額一億〇六三七万七五九八円に、次の(1)ないし(3)の各金額を加算し、(4)の金額を減算した額である。

(1) 本件確定申告書記載上の過誤による金額 二億四〇〇〇万円

原告が本件確定申告書の記載に当たって、所得金額を移記する欄に誤って記入した所得金額と、本来記入すべき所得金額との差額である。

(2) 減価償却の償却超過額 五九四万七六四〇円

施行令一三三条の適用上、本件ショーケースの取得価額は消費税を含む価額であっていずれも二〇万円以上であるから、その取得価額につき同条による損金算入はできないとして、原告が全額を損金に算入した本件ショーケースの取得価額合計六一一万〇〇六〇円から、これを減価償却資産とし、法定耐用年数六年を償却期間として、原告の採用する定率法で計算した本件事業年度の償却限度額合計一六万二四二〇円を控除した額である。

(3) 交際費等の損金不算入額 七二万三〇九九円

次のアないしウの各金額は、いずれも租税特別措置法(以下「措置法」という。)六二条(平成三年法律第一六号による改正前のもの、以下同じ。)所定の交際費等に当たるとして、本件確定申告書に添付された交際費等の損金不算入に関する明細書記載の支出交際費等の額六五三万〇一〇二円に、アないしウの各金額を加算した上、同条に従って算出した交際費等の損金不算入額の増加額である。

ア 本件確定申告において原告が広告宣伝費として全額を損金に算入した本件花輪代 四九万三四七二円

イ 本件事業年度に原告が得意先に贈る時計の購入費用としてマキヤほか一名に対し支出し、本件確定申告において広告宣伝費として全額を損金に算入した金額 六万三四七八円

ウ 本件事業年度に原告がその事業に関係ある者に対する接待費用として天政に対し支出し、本件確定申告において福利厚生費として全額を損金に算入した金額 一六万六一四九円

(4) 工事収入金額の減算額 六七万九八〇〇円

原告が本件確定申告において重複して収益に計上した中野冷機株式会社に対する工事収入金額である。

(二) 課税留保金額 四二七八万四〇〇〇円

次の(1)の留保金額から(2)の留保控除額を控除した額である。

(1) 留保金額 一億六六一一万三〇四三円

本件確定申告書に添付された所得の金額の計算に関する明細書記載の所得の留保金額三億一七三三万三八八三円に次のアの金額を加算し、イないしエの各金額を減算した額である。

ア 減価償却の償却超過額 五九四万七六四〇円

右(一)の(2)の金額である。

イ 工事収入金額の減算額 六七万九八〇〇円

右(一)の(4)の金額である。

ウ 法人税額 一億二七五五万六三〇七円

次のaの金額からbの金額を減算した額である。

a 法六七条二項に従って計算した法人税額 一億三九七六万九九二〇円

右(一)の原告の所得金額三億五二三六万八五三七円を基礎にして、法六六条の規定により計算した原告の本件事業年度に係る法人税額である。

b 控除税額 一二二一万三六一三円

本件確定申告書記載の控除税額である。

エ 住民税額 二八九三万二三七三円

右ウのaの法人税額一億三九七六万九九二〇円に、法六七条二項、施行令一四〇条(平成二年政令第九四号による改正前のもの)に従い、一〇〇分の二〇・七を乗じて得た金額である。

(2) 留保控除額 一億二三三二万八九八七円

右(一)の所得金額三億五二三六万八五三七円の一〇〇分の三五に相当する金額であり、法六七条三項各号所定の金額のうち最も多い金額である。

2  原告は、本件事業年度の所得金額及び課税留保金額の算出根拠についての右1の被告の主張のうち次の各点を争い、したがって、右各点を前提とする算出過程及び算出額を争う。

(一) 施行令一三三条の適用上、本件ショーケースの取得価額が消費税を含む価額であっていずれも二〇万円以上であるから、その所得価額につき同条による損金算入はできないとする点(右1の(一)の(2))

(二) 本件花輪代が措置法六二条所定の交際費等に当たるとの点(1の(一)の(3)のア)

3  そこで、本件の争点は、

(一) 本件ショーケースの取得価額につき施行令一三三条による損金算入をすることができるかどうか、換言すれば、原告の本件事業年度の所得金額の計算上、同条を適用するに当たって、本件ショーケースの取得価額は、消費税を含む価額(一台当たりの価額が二〇万円以上)であるのか、これを除く価額(一台当たりの価額が二〇万円未満)であるのか。

(二) 本件花輪代は措置法六二条所定の交際費等に当たるかどうか。

という点である。

三  争点に関する当事者の主張の要旨

1  争点(一)について

(一) 被告

(1)ア 法人税の課税所得を計算するに当たっては、法人が行なう取引に係る消費税の経理処理も、他の損益の計算と同様、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(法二二条四項)に従うべきこととなる。

しかるところ、法人税の課税所得を計算をする際の消費税の経理処理の方式としては、大別して次の二方式が考えられる。

a 税抜経理方式

売上、仕入、経費その他の損益等の額や資産の取得価額は、消費税を除いた額で計上し、消費税を企業の損益計算(すなわち所得金額の計算)に影響させない方式であって、この方式による場合には、売上の際に受け取った消費税は仮受金(仮受消費税)として、仕入、資産の取得の際に支払った消費税は仮払金(仮払消費税)としてそれぞれ処理した上、決算期等において清算(相殺)して、その差額を消費税の納付税額又は還付税額とするが、これも貸借上の処理のみであり、損益計算には影響しないこととなる。

b 税込経理方式

売上、仕入、経費その他の損益等の額や資産の取得価額を、消費税を含めた額で計上し、さらに、消費税の納付額は租税公課として損金に、消費税の還付額は益金に算入して、損益計算を行なう方式である。

イ 税抜経理方式は、消費税が、事業者の販売する物品やサービスの提供の価格に上乗せされて次々に転嫁され最終的には消費者が負担することになるが、事業者は売上等に係る消費税(仮受消費税)から、仕入、資産の取得等に係る消費税(仮払消費税)を差し引くことにより税の累積を排除するというその仕組から、消費税を企業の通過勘定に過ぎないとする認識に基づいて採られるものであり、他方、税込経理方式は、消費税が物品税と同様財貨の取得のための費用であるとする認識に基づき、さらに税抜経理方式に較べ経理処理がはるかに簡便であるという理由から採られるものである。

現行の消費税の制度上、免税業者が介在する場合のほか、課税売上割合が一〇〇分の九五に満たないために、課税仕入に係る消費税額であって控除の対象とならない税額が生ずる場合(消費税法(平成二年法律第三六号による改正前のもの、以下同じ。)三〇条二項)や、課税売上が一〇〇分の九五以上一未満の場合における課税売上に対応しない部分の課税仕入に係る消費税などのように、個々の取引において支払われた消費税相当額が常に経済的に仮受金、仮払金(すなわち通過勘定)と評価できるわけではなく、消費税の基本的性格にかかわらず、個々的には資産の対価ないし費用と評価し得る場合もあって、個別具体的な消費税相当額の経済的性格は一義的に決定し得るものではない。しかし、これら個々の消費税相当額も消費税の納税手続においては統一的に処理されることから、法人の課税所得を適正に算出するためには、その取扱いを統一する必要があるが、これを通過勘定として扱うのが税抜経理方式であり、資産の対価ないし費用として扱うのが税込経理方式である。そして、法人税の課税所得金額の計算の上では、いずれの方式も一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従ったものということができる。

税抜経理方式と税込経理方式とは、納付すべき(又は還付を受けるべき)消費税額の計算方法ではなく、会計処理の方式であるから、いずれの方式によるにせよ、納付すべき(又は還付を受けるべき)消費税額に相違が生ずることはないが、企業利益(したがって法人税の課税所得金額)は、いずれの方式を採るかによって相違が生ずることがある(例えば、減価償却資産の取得に係る消費税は、納付すべき(又は還付を受けるべき)消費税額の計算においては全額が控除額となり、また、税抜経理方式による場合においても、全額が企業利益の計算から除外されるのに対し、税込経理方式による場合においては、当該減価償却資産の本体価額と一体となって資産に計上され、その結果、当該事業年度では減価償却費が増加する分のみ費用として損金算入されるだけである。もっとも、当該事業年度だけでなく、減価償却期間を含めて長期的に考えれば、法人税の納税額は全体として変わらないことになる。)。

ウ 法人が、法人税の課税所得金額を計算するに当たり、その取引に係る消費税の会計処理につき、税抜経理方式と税込経理方式のいずれによるかは、当該法人の任意であるが、その選択した方式は、その法人の行なうすべての取引について適用しなければならず、個々の取引ごととか、個々の資産や経費などごとに異なる方式を適用することはできない。

なお、課税売上割合が一〇〇分の九五に満たないために、課税仕入に係る消費税額であって控除の対象とならない税額が生じた場合(消費税法三〇条二項)において、法人税の課税所得金額の計算上、これを損金に算入するにつき、施行令一三九条の九第一項、五項(平成五年政令第八六号による改正前のもの、以下同じ。)及び法人税法施行規則(以下単に「施行規則」という。)二八条の三第二項(平成五年大蔵省令第四五号による改正前のもの、以下同じ。)は、他方では税込経理方式を採用することをも許容した上で、法人が税抜経理方式を採る場合の損金算入の方法を定め、かつ、両者の混用処理は認めない旨を明らかにしたものであると解される。

したがって、売上等の収益に係る取引につき税込経理をしている場合には、固定資産等の取得に係る取引及び経費等に係る取引についても税込経理に従い、固定資産等の取得価額は消費税を含んだ額として計上しなければならない。

(2) しかして、原告が、本件確定申告に係る決算において、法人税の課税所得金額の計算に当たり、税込経理方式を採用していたことは、右第二の一の4の(一)の事実により明らかである。

この点につき、原告は、仮受消費税と仮払消費税との相殺を行い、通過勘定としての処理をしているのだから、原告の当期利益は、結果として、税抜経理方式に準ずるものであると主張するが、右主張は、消費税の確定申告のための課税標準及び税額控除等の計算と、法人税の確定申告のための各事業年度の所得金額の計算とを混同したものである。原告が消費税の課税標準額及び税額控除等を計算するに当たって、通過勘定たる性質に従った処理をしているか否かは、法人の損益計算とは無関係であり、法人税の課税所得金額の計算上は、損益計算書の売上等の収益に消費税相当額を含んでいる場合には、もはや消費税を通過勘定たる性質に従って処理しているとはいえず、税込経理方式を採用したといわざるを得ない。

(3) さらに、右第二の一の4の(二)のとおり、原告は、総勘定元帳及び損益計算書を作成し直した上、これを単なる表示方法ないし記載の仕方の訂正であって、確定申告後一年間は減額更正の請求が許され、さらに本件事業年度が消費税導入後の最初の事業年度でその会計処理に習熟していなかったことを考えれば、このような表示方法の訂正は許されるべきであると主張する。

しかし、企業利益の計算ひいては法人税等の課税所得金額の計算において、税込経理方式と税抜経理方式とのいずれを採用するかによって、課税所得金額に差異が生ずることは右(1)のイのとおりであって、総勘定元帳及び損益計算書を右第二の一の4の(二)のとおり作成し直すことは単なる表示方法ないし記載の仕方の訂正に止まるものではない。

そして、法は、法人は各事業年度終了の日の翌日から二か月以内に、税務署長に対し、確定した決算に基づき当該事業年度の課税標準である所得の金額又は欠損金額及びこれに対する法人税額を記載した申告書を提出しなければならない旨を定める(法七四条一項)ほか、減価償却費の損金算入など一定の事項については、確定した決算において費用又は損失として経理すること(損金経理)をその要件としている(法二条二六号、三一条等)ところ、これらの確定決算基準の趣旨は、法人自身の計算による企業利益を基にして課税所得を誘導するという法の構成上、必然的に法人自身の計算が要求されること、また、企業利益ないし課税所得金額の計算上、二以上の基準・方法がありその選択適用が認められる項目について法人の意思決定の表明が求められることなどにあるから、ここにいう確定した決算とは、当初の確定申告の基礎となった決算をいうものと解すべきであり、課税関係の安定の見地から、確定決算の修正変更は基本的に認めることはできない。

すなわち、法は、確定決算の修正はあり得ないという立場を取っているのであり、このことは、法が違法性を帯びた仮装経理による過大申告の場合でさえも、事後の確定申告において修正させることとして(法一二九条二項)、確定決算の遡及修正については規定していないことからも明らかである。

(4) 施行令一三三条の適用に当たり、本件ショーケースの取得価額は、施行令五四条一項一号に従って、その購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税その他その購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した額)と、これを事業の用に供するために直接要した費用の額との合計額とされるところ、法人税の課税所得金額の計算に当たって、原告は税込経理方式を採用しているのであり、この場合、消費税の額は売上、仕入、経費その他の収益等の金額や固定資産等の取得価額と区分せず、これらの金額や取得価額に含めて経理することになるから、消費税額は購入の代価に含まれて、取得価額を構成するものと考えられる。

したがって、本件ショーケースの取得価額は、いずれも消費税を含んだ価額であるオープンショーケースBIM三―一〇五型が一台当たり二〇万三四四八円、オープンショーケースBIF三―一〇五型が一台当たり二〇万三七七九円となり、施行令一三三条による取得価額相当額の損金算入をすることはできない。

(二) 原告

(1) 消費税は、製造から小売までの各取引段階ごとに課税を行ない、各事業者はその負担した消費税を販売する物品やサービスの提供の価格に上乗せしていくことにより、最終的には消費者にこれを負担させることになるが、各事業者は、原則として、課税期間における課税売上高に一〇三分の三を乗じた額から課税仕入高に一〇三分の三を乗じた額を控除することにより、その元に留った消費税額を算出して納付することになる。この結果、各事業者にとっては、売上に係る消費税は仮受金としての、仕入に係る消費税は仮払金としての性格を有することになり、結局、消費税は単なる通過勘定にすぎないものである。

もっとも、消費税の納付義務が免除されている免税事業者や非課税取引を行なう非課税事業者については、消費税の転嫁がとぎれることになるから、消費税の通過勘定という性格は失われることになる。

(2)ア 事業者が、右(1)のような消費税の性格に立脚して、会計処理をする場合には、消費税が企業の損益すなわち当期純利益の多寡に影響を及ぼさず、企業内を通過していくだけの勘定であるということを反映した処理をしなければならない。

このような趣旨に基づく会計処理の方法の一が被告の主張に係る税抜経理方式であるが、これのみが消費税の通過勘定であるという趣旨に基づいた唯一の会計処理方法ではなく、最終的に当期純利益の多寡に影響を及ぼさないのであれば、損益計算上の収益・費用の額を消費税を含まないものとすることが要求されるものではない。すなわち、損益計算書上、収益・費用の額を消費税を控除しない金額とした上で、受け取った消費税と支払った消費税とを清算した金額を諸税公課に計上するとともに、貸借対照表の未払消費税(未払金)に計上する方法でも、被告のいう税抜経理方式と同様、当期純利益の額に消費税が全く影響を及ぼさない会計処理が可能である(この方法による場合でも、消費税の通過勘定としての性格に立脚するのであるから、固定資産の償却等の処理をするに当たっては、消費税額をその資産の取得価額に含めないなど、消費税を考慮しない処理をすることが必要である。)。

この方法も、被告の主張に係る税抜経理方式も、消費税が通過勘定にすぎないという趣旨を表したものとしては同等であり、単にその表記方法が異なるにすぎない。この方法は、施行規則二八条の三第二項の「その他これに準ずる会計処理の方法」に当たるものである。

これに対し、免税事業者や非課税事業者においては、消費税に通過勘定という性格がないのであるから、会計処理のすべての場面において消費税額を含めた経理を行ない、その結果、当期純利益にも消費税の影響が及ぶこととならざるを得ない。

イ 被告は、表記の仕方によってその主張に係る税抜経理方式と税込経理方式とを区分するが、表記の仕方によって、消費税の性格を左右させるのは本末転倒であって不当である。

ウ 原告が本件事業年度において行なった会計処理の方法は、右アの消費税を通過勘定として経理する方法のうちの、損益計算書上、収益・費用の額を消費税を控除しない金額とする方法である。すなわち、損益計算上の表記の仕方については、消費税を控除しない金額で記載したものの、未払消費税を損益計算書の諸税公課に計上し、固定資産の取得価額には消費税額を含めないで償却や損益の処理を行ない、結局は、当期純利益に消費税額を影響させない経理を行なったものである。

(3) 原告は、右第二の一の4の(二)のとおり、総勘定元帳及び損益計算書の記載を消費税額を控除した金額に修正したが、原告の経理方式は元々消費税を通過勘定として経理するものであったから、この修正によっても当期純利益及び課税所得金額に変更はなかった。したがって、決算書類のうち表示方法を修正したのは損益計算書のみであり、貸借対照表や剰余金計算書については、修正の必要がなかった。

このことからすれば、原告のした修正は、単に総勘定元帳や損益計算書の表示方法ないし記載の仕方を訂正したにすぎないものであって、確定決算を修正したものではない。

なお、一般に確定申告後一年間は減額更正の請求さえも許され、さらに本件事業年度が消費税導入後の最初の事業年度であって会計処理に習熟していなかったことからすれば、右のような表示の修正は当然認められなければならない。

(4) 施行令一三三条の適用に当たり、本件ショーケースのような購入した減価償却資産の取得価額は、施行令五四条一項一号に従って、その購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税その他その購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した額)と、これを事業の用に供するために直接要した費用の額との合計額とされている。しかるところ、消費税は、従来の物品税のような個別間接税とは異なり、消費一般に負担を求め、最終消費者がこれを負担する租税であって、生産・流通の各段階では、課税事業者の販売する物品やサービスの提供の価格に上乗せされて次々に転嫁され、また、事業者は売上等に係る消費税から、仕入に係る消費税を控除することにより税の累積を排除することとなっており、仕入に係る消費税も結局その事業者が負担するものではない。したがって、減価償却資産の購入に係る消費税額は、それが資産の購入の代価そのものでないことはもとより、購入のために要する費用ともいえないのであり、さらに、事業の用に供するために要した費用でないことも明らかである。

被告は、その主張に係る税込経理方式を採用している場合は、消費税額は購入の代価であると主張するが、ある費用が、経理方式の違いによって代価(取得価額)になったりならなかったりするというのは不合理であり、本末転倒である。

したがって、どのような経理方式を採用しているかにかかわらず、施行令一三三条の適用上、取得価額は消費税を控除した金額としなければならない。

2  争点(二)について

(一) 被告

(1) 措置法六二条所定の交際費等と広告宣伝費の別は、その支出が交際目的(親睦の度を密にして取引関係の円滑な進行を図ること)であるか、広告宣伝目的(購買意欲の刺激)であるか、また、支出先が特定しているか、不特定であるかによって判定すべきものと解される。なお、交際目的と広告宣伝目的とは本来相反するものではなく、交際目的の中に広告宣伝的要素が複合して存在することもあり得るが、その場合には、行為の外形から主たる目的を推断するのが相当である。

(2) 一般に、開店祝いの花輪等は、取引等の関係のある者から、開店の雰囲気作りのためにお祝として贈られるものであって、交際目的に出るものと解される。仮に、贈る側に広告宣伝の目的があったとしても、特段の事情のない限りそれは二次的な目的にすぎないというべきである。

原告による花輪等の贈呈についても、用いられたのは一般に開店祝い用として販売されているものであって、原告の社名を殊更大きく表示する等広告宣伝のための特別の仕様のものではなく、また、花輪等の贈り先が特定していることはもとより、その中に原告との取引関係を前提としないものはない。さらに、原告が花輪等の贈呈を申し出ても、相手から断られれば行なわれないし、相手から求められれば、これに応ずるなど、その贈呈は個別の交際を基礎として行なわれているものである。加えて、冷凍設備工事業という原告の業種に照すと、花輪等の贈呈による宣伝効果それ自体が疑問である。

したがって、原告による花輪等の贈呈が交際目的に出ることは明らかであり、広告宣伝を主目的とするような特段の事情は存在しない。

(3) なお、原告は、本件花輪代につき、パチンコ機メーカーがパチンコ機納入に際してパチンコ店に贈呈する新装開店祝いのための花輪代等の費用と同様に取り扱うべきであると主張するが、パチンコ機メーカーの取扱いは、パチンコ店がその新装開店に際し、パチンコ機メーカーに何の断りもなく勝手にパチンコ機メーカーの名前で花輪を注文して店頭に飾り、後日その花輪代を別途請求したり、または景品の納入代金から差し引くということが往々にして見受けられることから、このような業種・業態による特殊性に鑑み、特別な処理も是認され得るとの取扱例に過ぎない。

原告の営む冷凍設備工事業とパチンコ機メーカーとは業種・業態が異なる上、原告が花輪を贈ったのは、本件事業年度に冷凍設備等の工事を施工した得意先二七〇件のうち、わずか四〇件にすぎないことに照らすと、これをパチンコ機メーカーについての取扱いと同等に論ずる基礎がない上、原告が売上割戻し等のために自ら定める支出基準に基づき花輪等贈ったものと認めることもできず、他に、原告の冷凍設備工事業という業種・業態をパチンコ機メーカーと同視すべき理由は何もないのであるから、本件花輪代につきパチンコ機メーカーの贈呈する花輪代と同様に扱うことはできない。

(二) 原告

(1) 原告が取引先に対して花輪等を贈呈する目的は、原告自身の広告宣伝と贈呈に係る相手方取引先の広告宣伝のためである。

すなわち、冷凍設備等の工事業を営む原告の取引先は、スーパーマーケット等の食料品販売店などが主であるが、原告が冷凍設備等の設計・施工をして改装あるいは新規開店をした店舗等に、原告の商号を記載した花輪等を掲出することにより、その店舗の冷凍設備等を原告が設計・施工したことが分かり、これによって他の食料品販売店にも原告の名前を知らしめ、将来の改装や新規開店に際して原告への発注を促すという効果を期待するものである。他方、原告が設計・施工をした店舗にとっては、改装あるいは新規開店したことを顧客に知らしめることは、その宣伝のために必要不可欠なことであって、その手段としてチラシ広告等とともに、店頭での花輪等の掲出も効果的である。そして、原告が設計・施工した店舗が繁盛することは、他の食料品販売店にも効果を及ぼし、繁盛している店舗と同じ設計・施工業者に発注しようという意欲を与えることとなり、ひいては原告の宣伝にもなるのである。

(2) 原告において、本件花輪等を贈呈する基準は特に定めてはいないものの、宣伝効果の小さいもの、繁華街で立地的に置き場所がないところ、取引先が拒絶する場合には贈呈しないものの、中心的な店舗には宣伝効果を狙って高価なものとし、そうでない店舗には安価なものを贈呈している。ただし、生花ないし花輪という物の性質からして価格の差はそれ程なく、また、一店舗にいくつも掲出するわけにもいかないのであるから、取引の金額に応じて差を設けることも困難である。

(3) 被告は、原告の贈呈する花輪等が社名を殊更大きく表示するなどの特別仕様でないとか、贈呈先が取引関係を前提としているとか、相手から断られれば贈呈をしないとかと主張するが、広告宣伝の目的のためには社名を殊更大きく表示しなければならないということはなく、かえって、わざとらしい広告は逆効果を招くだけであるし、また、花輪等という媒体を顧客の店頭に掲出するという方法である以上、贈呈先が取引先に限られ、あるいはその意向を無視して掲出し得ないことは当然であり、これらの事柄が、花輪等の贈呈の目的を否定することにはならない。

(4) 国税庁は、パチンコ機メーカーが、パチンコ機納入に際してパチンコ店に贈呈する新装開店祝いのための花輪代等の費用を交際費に該当しないものとして取り扱っているのであり、その理由は、それがパチンコ機納入の際に行われるという実態に着目すれば、売上割戻しまたは販売奨励金としての性格を有し、また、パチンコ店の場合は、パチンコ機の入替えに際して花輪等をその店頭に掲出することが客に対する宣伝上欠かせないものと認められるから、その意味において、パチンコ店における花輪等は一種の事業用資産とも考えられ、したがって、パチンコ機メーカーの支出する花輪代等は売上割戻又は販売促進の目的で事業用資産を交付するための費用を支出したものとして取り扱うことが相当であるという点にある。

そして、そのような事情は、冷凍設備等の工事業を営む原告の業務においても全く同様に考えることができるものであり、したがって、原告の支出した本件花輪代についても、同様に取り扱うべきである。

第三争点に対する判断

一  争点(一)について

1  本件事業年度当時における、消費税の課税物件、納税義務者、課税標準、仕入に係る消費税額の控除等の概要は、原則的に次のとおりである。

(一) 消費税は、国内において事業者が行なった資産の譲渡等(事業として対価を得て行なわれる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう。)を課税物件とし、事業者を納税義務者として課されるが、資産の譲渡等のうち消費税法別表第一に掲記のものは非課税とされ、また当該課税期間に係る基準期間における課税売上高が三〇〇〇万円以下である小規模事業者に対しては納税義務が免除される(同法二条一項八号、四条、五条、六条、九条)。

(二) 消費税の課税標準は課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的利益の額であり、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額を含まない。)であり、税率は一〇〇分の三である(同法二八条、二九条)。したがって、課税標準額は通常課税期間中の課税売上高(消費税額に相当する額を含む。)の合計額に一〇三分の一〇〇を乗じて算出され、これ(但し、国税通則法一一八条に基づく端数切捨て後の金額)に一〇〇分の三を乗じて得た額が消費税の税額となる。

(三) 事業者が国内において課税仕入(事業者が事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けることをいう。商品、原材料等の仕入に限られず、給与等を対価とする場合以外の役務の提供や電気、水道等の供給を受けること、減価償却資産の購入等を含む。但し、当該他の者が事業として資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は役務の提供をした場合に課税資産の譲渡等に該当するものでなければならない。)を行なった場合には、当該課税仕入をした日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中の課税仕入に係る消費税額(課税仕入に係る支払対価(消費税額に相当する額を含む。)の額に一〇三分の三を乗じて算出される金額をいう。)が控除される。もっとも、課税売上割合が一〇〇分の九五に満たないときは、控除税額は、課税仕入に係る消費税額の全額ではなく、同法三〇条二項一号又は二号によって算出される税額となる(消費税法三〇条一項、二項、六項)。仕入に係る消費税額の控除の適用を受けるためには、一定の事項の記載された帳簿又は請求書等を保存することが要件とされている(同条七項、八項)。なお、特例として、事業者が税務署長に対し、その基準期間における課税売上高が四億円以下の課税期間について所定の届出書を提出した場合には、その提出をした日の属する課税期間の翌課税期間以後の各課税期間については、課税標準に対する消費税額を基礎として、所定のみなし仕入率を乗じて算出した額を仕入に係る消費税額として控除する(簡易課税制度。同法三七条)。

(四) 事業者は各課税期間(法人については各事業年度が、個人事業者については原則として各暦年がこれに当たる。)ごとに、その終了後二か月以内に、所定事項を記載した確定申告書を税務署長に提出して消費税の確定申告をするとともに、当該課税期間における課税資産の譲渡等に係る課税標準額に対する消費税額から、仕入に係る消費税額その他の税額控除に係る金額を控除した残額に相当する消費税額を納付し、もし控除不足額が生じたときはその額の消費税の還付を受ける(同法一九条一項、四五条、四九条、五二条)。

2(一)  右1のとおり、消費税は、流通の各段階において、課税資産の譲渡等に対し、その譲渡等の対価の額を課税標準額として課税されるが、他方、課税の累積の排除のために、当該流通の前段階の税額に当たる課税仕入に係る消費税額が、課税資産の譲渡等に係る課税標準額に対する消費税額から控除され、課税期間である各事業年度又は各暦年ごとにその差額が納付税額となる(控除不足額が生ずるときは還付税額となる)という基本的な仕組を有することから、納税義務者である事業者にとって、課税資産の譲渡等(すなわち売上)の際に受領する金額のうちの消費税相当額、及び課税仕入(すなわち商品、原材料等の仕入、役務の提供を受けること、減価償却資産の購入等)の際に支払う金額のうちの消費税相当額は、いずれも理念的には各事業年度又は暦年の所得の計算上、損益に影響を及ぼさない結果となるはずであり、かかる意味で、それぞれ当該事業年度又は暦年において清算される仮受金、仮払金としての性格を有し、結局、消費税は事業者の会計処理上は単なる通過勘定であると認識することが可能である。

(二)  しかしながら、消費税が常に事業者の損益計算に影響を及ぼさない結果となるよう取り扱われている訳ではない。すなわち、まず、納税義務が免除される事業者については、仕入に係る消費税額の控除の適用がないから(消費税法三〇条一項)、その損益計算上、課税資産の譲渡等の際に受領する金額の全額が益金となる一方で、課税仕入の際に支払う金額のうちの消費税相当額も損金となることになるし、課税売上割合が一〇〇分の九五に満たない場合において、課税仕入の際に支払う金額のうちの消費税相当額のうち、同法三〇条二項一号又は二号によって算出される税額を超える部分(控除の対象とならない消費税額)も、事業者の負担に帰することになるから損金処理すべきものである。また、消費税が事業者の会計処理上、純粋な通過勘定であるというためには、課税資産の譲渡等の際に受領する金額のうちの消費税相当額及び課税仕入の際に支払う金額のうちの消費税相当額と納付税額(又は還付税額)との間に、計算上の厳密な整合性が要求されるべきはずであるところ、簡易課税制度においてかかる整合性が失われていることはもとより(限界控除制度(消費税法四〇条)においても同様のことがいえる。)、課税売上割合が一〇〇分の九五以上で一に満たない場合においても、非課税の資産の譲渡等に対応する部分を含めて、課税仕入に係る消費税額の全額が控除されることになるから、整合性はやはり失われていることになるし、また、そもそも、課税仕入に係る消費税額を、課税仕入に係る支払対価の額(同法三〇条七項及び八項に鑑みれば、帳簿等の記録に基づく額となる。)に一〇三分の三を乗じて算出することとする制度自体が、課税仕入に係る消費税額と、課税資産の譲渡等に係る課税標準額に対する消費税額との対応関係を失わせ、かかる厳密な整合性を犠牲にする面があることは否めない。そして、このように整合性の失われている部分においては、その失われている部分に係る消費税は、結局、事業者の損益に吸収されることとならざるを得ないから、その限りでは消費税が事業者の損益計算に影響を及ぼすものであることが明らかである。

そして、このことと、わが国においては前段階税額控除の制度になじみが薄いこと、売上又は仕入の際に受領しあるいは支払う金額のうちの消費税相当額を対価から分離して経理することは煩瑣でもあることなどを考慮すると、前記のような消費税の基本的な仕組にかかわらず、消費税を資産の対価ないし費用の一部と観念することも不自然であるということはできない。

3(一)  そうだとすれば、法人税の課税所得金額の計算の上では、消費税を通過勘定として扱う会計処理も、これを資産の対価ないし費用として扱う会計処理も、ともに一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従ったものというべきである。

先に挙げた課税売上割合が一〇〇分の九五に満たない場合において、課税仕入の際に支払う金額のうちの消費税相当額のうち、消費税法三〇条二項一号又は二号によって算出される税額を超える部分(控除の対象とならない消費税額)が生じた場合にこれを損金算入する方法等につき定めた施行令の規定(一三九条の九)が、同条による損金算入の対象とされる「資産に係る控除対象外消費税額」の意義を「内国法人が消費税法十九条第一項(課税期間)に規定する課税期間につき同法第三十条第一項の規定の適用を受ける場合で、当該課税期間に係る同項に規定する課税標準額に対する消費税額及び同条第二項に規定する課税仕入れ等の税額をこれらに係る取引の対価と区分する経理をしたときにおける当該課税仕入れ等の税額のうち、同条第一項の規定による控除をすることができない金額で資産に係るものの合計額をいう」(施行令一三九条の九第五項)とし、さらに、同条八項に基づく施行規則の規定(二八条の三)が「令第百三十九条の十第五項に規定する経理は、同項に規定する課税標準額に対する消費税額及び同条第二項に規定する課税仕入れ等の税額を、それぞれ仮受消費税及び仮払消費税としてこれらに係る取引の対価と区分する会計処理の方法その他これに準ずる会計処理の方法による経理とする」としている(施行規則二八条の三第二項)ことに鑑みれば、課税標準額に対する消費税額及び課税仕入れ等の税額をこれらに係る取引の対価と区分する経理(具体的には、これらをそれぞれ仮受消費税及び仮払消費税としてこれらに係る取引の対価と区分する会計処理の方法による経理)が認められるのと同時に、その前提として課税標準額に対する消費税額及び課税仕入れ等の税額をこれらに係る取引の対価と区分しない経理(取引の対価に含める会計処理による経理)もまた法令上認められていることが明らかである。

(二)  なお、原告は、損益計算書上、収益・費用の額を消費税を控除しない金額とした上で、受け取った消費税と支払った消費税とを清算した金額を諸税公課に計上するとともに、貸借対照表の未払消費税(未払金)に計上する処理の方法をもって、右施行規則二八条の三第二項の「その他これに準ずる会計処理の方法」に当たるものであると主張するが、収益、費用がそれぞれ消費税を含んだ額であれば、収益から費用を差し引く通常の損益計算の過程で、課税仕入の際に支払う金額のうちの消費税相当額は、消費税法三〇条二項一号又は二号によって算出される税額を超える部分(控除対象外消費税額)に該当するとしないとにかかわらず費用化される(いわば当然に損金に繰り込まれる)ことになるから、これについて改めて損金算入の処理を別個に行なう必要は生じない。したがって、原告の主張するような収益・費用の額を消費税を控除しない金額とする会計処理の方法が、右の損金算入の処理を必要とする経理であるはずの施行規則二八条の三第二項の「その他これに準ずる会計処理の方法による経理」に該当することはあり得ないものというべきである。

4  ところで、右のように、法人税の課税所得金額の計算上、消費税を通過勘定として扱う会計処理も、これを資産の対価ないし費用として扱う会計処理も、ともに一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従ったものとして許容されるとしても、双方の会計処理の方法を混用すれば、法人の損益計算上、収益若しくは費用の内容又はその対応関係に混乱が生じ、ひいては適正な課税所得金額の算出をなし得ない虞れが生ずることは明らかであり、したがって、原則として、いずれかの会計処理の方法に統一すべく、その混用処理は認めることができないものというべきである。

5(一)  証拠(乙第七号証)及び弁論の全趣旨によれば、平成元年三月一日直法二―一国税庁長官通達「消費税法の施行に伴う法人税の取扱いについて」は、法人税の課税所得金額の計算に当たり、法人が行なう取引に係る消費税の経理処理については、税抜経理方式(消費税の額と当該消費税に係る取引の対価の額とを区分して経理する方式)又は税込経理方式(消費税の額と当該消費税に係る取引の対価の額とを区分しないで経理する方式)のいずれの方式によることとしても差し支えないが、法人の選択した方式は、原則として、当該法人の行なうすべての取引について適用するものとする旨を定めていること、被告の主張する税抜経理方式又は税込経理方式の内容(第二の三の1の(一)の(1)のアのa及びb)は、それぞれ右通達にいう税抜経理方式又は税込経理方式と同一で、これをさらに敷衍したものであることが認められるが、叙上の説示に照らし、右通達による税抜経理方式及び税込経理方式の区分並びにその取扱いに関する指示(選択の任意性及び取扱いの統一性)はもとより正当であって、これに基づく被告の主張も相当というべきである。

(二)  原告は、被告の主張に従えば、表記の仕方によって消費税の性格を左右させることになり、本末転倒であって不当である旨主張する。

しかし、右2及び3のとおり、消費税は単なる通過勘定であると認識することが可能であるとともに、これを資産の対価ないし費用と観念することも不自然ではなく、いずれの性格を基にする会計処理の方法も一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従ったものとして法令上許容されているものと認めることができるところ、その場合に選択採用した会計処理の方法によって、消費税の表記の仕方が変ってくるのであり、その表記の仕方が消費税の性格を左右させるものではないから、原告の右主張は失当である。

6(一)  しかして、右第二の一の4の(一)の事実関係によれば、原告は、本件事業年度中に作成した総勘定元帳に消費税相当額を含んだ額でそれぞれの金額を記帳していたのみならず、本件確定申告書に添付した営業成績報告書所収の損益計算書においても、売上等の収益の額も、一般管理販売費等の費用の額も、ともに消費税相当額を含んだ額でそれぞれの金額を計算した上、申告納付すべき消費税相当額を諸税公課中に計上していたことが認められるところ、このような経理が、右3の消費税を資産の対価ないし費用として扱い、これを取引の対価に含める会計処理方法による経理(被告の主張する税込経理方式による経理)に該当することは明らかである。

(二)  原告は、原告のした経理においても、消費税が最終的に当期純利益の多寡に影響を及ぼさないのであるから、消費税を通過勘定とする趣旨に基づいたものであると主張する。

しかし、まず、原告のした右のような経理が、施行規則二八条の三第二項の「その他これに準ずる会計処理の方法による経理」に該当しないことは右3のとおりである。のみならず、法人が、その損益計算においてどのような会計処理の方法を採用していようと、消費税の確定申告のための課税標準、税額控除等の計算自体(したがって、右の計算によって算出される消費税の納付税額(又は還付税額)自体)は変るものではなく、採用した会計処理の方法により消費税の納付税額(又は還付税額)が変動する結果として法人の当期純利益の額が左右されるということのないことは当然である。すなわち、消費税の納付税額(又は還付税額)に変りがないことは、法人の採用する会計処理の方式が消費税を通過勘定とする認識に立脚するものであるかどうかとは全く無関係である。もっとも、消費税自体の取扱い以外の点においては、後記のとおり、その採用する会計処理の方法により法人の損益計算(したがって当期純利益の額)に相違が生ずることはあり得るところ、原告が本件確定申告に際して行なった損益計算は、その会計処理の方法を混用することにより、当期純利益の額を、消費税を通過勘定として扱う会計処理による経理(被告の主張する税抜経理方式による経理)を採った場合と結果的に符合させたものというべきであるから、この点に関しては、当期純利益の額に影響がないとする原告の主張の前提自体が誤りである。したがって、いずれにしても、原告の右主張は失当である。

(三)  原告が本件確定申告後に、本件事業年度につきそれぞれの金額を消費税を含まない額に改めた総勘定元帳を作成し、また、被告に対し、本件確定申告書に添付された営業成績報告書を、新たに作成したそれぞれの金額に消費税を含まない額とした損益計算書を含む営業成績報告書に差し替えるよう申し出たことは右第二の一の4の(二)のとおりであるが、この点に関し、原告は、原告の経理方式は元々消費税を通過勘定として経理するものであったから、この修正は単に総勘定元帳や損益計算書の表示方法ないし記載の仕方を訂正したにすぎず、確定決算を修正したものではないとか、確定申告後一年間は減額更正の請求が許され、本件事業年度が消費税導入後の最初の事業年度であって会計処理に習熟していなかったから、右のような表示の修正は当然認められなければならないとかと主張する。

しかしながら、本件事業年度における原告の会計処理の方法が消費税を資産の対価ないし費用として扱い、これを取引の対価に含めるものであって、これが消費税を通過勘定として扱う会計処理によるものといえないことは右(一)及び(二)のとおりであるから、仮に原告が本件確定申告後に作成し直した総勘定元帳及び損益計算書が、課税標準額に対する消費税額及び課税仕入れ等の税額をこれらに係る取引の対価と区分する経理(すなわち、消費税を通過勘定として扱う会計処理による経理)に当たるものとすれば、それは会計処理の方法を変更したことに当たるものであって、同一の会計処理の方法の下における総勘定元帳や損益計算書の表示方法ないし記載の仕方を単に訂正したに止らないことは明らかである。

したがって、右のような表示の修正は認められるべきであるとする原告の主張が、会計処理の方法に変更がないことを前提とするのであれば、右主張は前提を欠くものであって失当である。

また、仮に、原告の右主張が、確定申告の基礎とされた決算における会計処理の方法を、確定申告後に変更するようなことも許されるべきであるとするものであれば、その主張自体が失当である。すなわち、法人は各事業年度終了の日の翌日から二か月以内に、税務署長に対し、確定した決算に基づき当該事業年度の課税標準である所得の金額又は欠損金額及びこれに対する法人税額を記載した申告書を提出しなければならないとされており(法七四条一項)、ここにいう確定した決算が確定申告の際に基礎とされた決算をいうものであることは、右規定上明白であるところ、法において、この確定決算における会計処理の方法を確定申告後に変更することが許容される根拠となるような規定は見当たらないし、また、会計処理の方法を異にすることにより、法人税の課税所得金額に相違が生じ得ることは後記のとおりであるから、確定申告後にその基礎とされた決算における会計処理の方法を変更するようなことは、そもそも確定申告制度と相容れないものといわざるを得ない。

したがって、原告の右主張はいずれにせよ失当である。

7(一)  右6の(一)の事実によれば、原告は、本件確定申告に係る決算において、法人税の課税所得金額を計算するに当たり、消費税を資産の対価ないし費用として扱い、これを取引の対価に含める会計処理の方法(被告の主張する税込経理方式)を採用していたものと認められる。

しかして、施行令一三三条によれば、減価償却資産につき同条による損金算入をするための要件としての取得価額は、施行令五四条一項一号に従い、当該減価償却資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税その他その購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した額)と、これを事業の用に供するために直接要した費用の額とを合計して算出することになるところ、消費税を取引の対価に含める会計処理の方法による経理をしていた場合においては、当該減価償却資産の購入の際に支払う金額のうちの消費税相当額も、購入の対価と区分せず、これに含めた経理処理をすることになるから、同号の「当該資産の購入の代価」は消費税相当額を含む価額をいうものと解すべきである。

(二)  原告は、減価償却資産の購入に係る消費税額も結局その事業者が負担するものではないから資産の購入の代価に当たらないとか、ある費用が経理方式の違いによって代価(取得価額)になったりならなかったりするというのは不合理であり、本末転倒であるとかと主張する。

確かに、消費税の納付税額(又は還付税額)の計算上は、課税資産の譲渡等に係る課税標準額に対する消費税額から課税仕入れに係る消費税額が控除されることになり、法人税の課税所得金額の計算上も、消費税を通過勘定とする認識に基づいて、課税標準額に対する消費税額及び課税仕入れ等の税額をこれらに係る取引の対価と区分する経理(被告の主張する税抜経理方式)を採用する場合においては、減価償却資産の取得価額は消費税相当額を含まない価額とされることになる。しかし、右2の(二)及び3の(一)のとおり、現行の消費税制度の下においては、消費税は必ずしも純粋な通過勘定とはいえず、資産の対価ないし費用の一部と観念することも不自然とはいえないのであって、法人税の課税所得金額の計算上、かかる理解に基づいて課税標準額に対する消費税額及び課税仕入れ等の税額をこれらに係る取引の対価と区分せずに、これを取引の対価に含める会計処理の方法による経理(被告の主張する税込経理方式)によることも認められるのであるから、そのような会計処理の方法による経理を採用する以上、消費税自体の納付税額(又は還付税額)の計算とは関わりなく、法人税の課税所得金額の計算上は、原価償却資産の取得価額を消費税相当額を含む価額とすることに何ら不合理な点はない。

そして、そうだとすれば、採用する経理方式の相違によって消費税相当額が減価償却資産の取得価額に含まれるか否かが異なることになり、ひいて、消費税相当額の部分も減価償却の対象に組み込まれるか否か、あるいは施行令一三三条による損金算入が可能か否かを介して、法人税の課税所得金額が異なることもあり得ることになるが、右3の(一)のとおり、いずれの経理方式も、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従ったものとして法令上許容されるものであるところ、このように、課税所得金額の計算上、二以上の基準ないし方式がともに許容されて法人の選択に委ねられている場合においては、いずれを選択するかによって当該損益項目の金額が変わり、最終的には課税所得金額に差異が生ずる結果となることは当然であり、その例も少なくないのであるから、右の場合にのみ、これが不合理であるとする理由はない。

したがって、原告の右主張も失当である。

(三)  なお、証拠(乙第七号証)及び弁論の全趣旨によれば、前掲通達は、施行令一三三条を適用する場合において、取得価額が二〇万円未満であるかどうかは、法人が適用している税抜経理方式又は税込経理方式に応じ、その適用している方式により算定した取得価額により判定する旨定めていることが認められるが、叙上の説示に照らし、右通達の内容は正当である。

(四)  しかして、右第二の一の3のとおり、原告が中野冷機株式会社から購入した際の、本件ショーケースの消費税相当額を含んだ価額は、オープンショーケースBIM三―一〇五型が一台当たり二〇万三四四八円、オープンショーケースBIF三―一〇五型が一台当たり二〇万三七七九円であるから、ともにその取得価額が施行令一三三条所定の額である二〇万円未満に当たらず、したがって、本件ショーケースについては、いずれも同条による損金算入の処理をすることはできないものといわなければならない。

二  争点(二)について

1  右第二の一の5の事実に証拠(甲第一〇号証の一ないし五、証人山崎昭哉の証言)及び弁論の全趣旨を総合すると、(一) 原告は、本件事業年度において、冷凍設備等の設置工事を行なった相手先約二七〇店舗(そのうち改装あるいは新規開店をしたのは約五〇店舗)のうち約四〇店舗に対し、開店祝いとして花輪等を贈呈し、その購入代金として合計四九万三四七二円の本件花輪代を支出したこと、(二) 原告が贈呈した花輪等は、花屋等で一般に開店祝い用として販売されている通常の規格の品で、これに取り付けられた垂幕や名札に、「祝」という赤色の文字や贈呈先の店舗名などともに、原告の社名(原告代表者名を含む場合もある。)が記載されてはいるものの、その業種等の記載まではないこと、(三) 贈呈先の店舗には、多くの場合原告の贈呈に係るもののほか、他の取引先等からも同様の花輪等が贈呈され、これらが店頭に並べて掲出されたこと、(四) 原告において花輪等を贈呈するかどうかの決定は、形式的には支店長等の権限に属するものの、現実的には営業担当者の判断に従っており、また、その贈呈は、原告から相手先店舗に申し出る場合も相手先店舗から求められて実行する場合もあること、(五) 原告が贈呈した右花輪等の一基当たりの購入代金は、季節によって変動はあるものの、概ね一万円ないし一万五〇〇〇円余りで、平均すると一万円を多少上回る程度のものであったこと、以上の事実が認められる。

2  ところで、措置法六二条所定の交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものをいう(同条三項)。

しかして、本件花輪代は、右1のとおり、原告が冷凍設備等の設置工事をした相手先店舗に対し開店祝いとして贈呈した花輪等の購入代金であるから、法人がその得意先に対する贈答行為のために支出した費用に当たるものである。

また、経験則ないし弁論の全趣旨によれば、開店祝いの花輪は、これが当該店舗の店先に並ぶことにより華やかさが増し、開店の祝賀気分を盛り上げるとともに人目を引くなどの当該店舗にとって望ましい効果を有すること、そのため、取引界において、取引先等の開店に際し、これを祝う意思を表出する手段として花輪等を贈呈する慣行があることがそれぞれ認められ、このことと右1の各事実とを併せ考えれば、特段の事情が存しない限り、原告が冷凍設備等の設置工事をした相手先店舗に対し開店祝いとして花輪等を贈呈した行為は、いわゆる「つきあい」として慣行に従うという面が多分にあるものの、工事発注に対する謝意と今後の好諠を願う意図とを込めた祝賀の意思を表すことを主たる目的としたものと推認されるところ、それは、とりもなおさず、相手先店舗との親睦の度を密にして取引関係の円滑な進行を図る目的、すなわち交際目的にほかならず、したがって、本件花輪代は措置法六二条の交際費等に当たるというべきである。

3(一)  そこで、右特段の事情の有無につき検討するに、原告は、原告が取引先に対して花輪等を贈呈する目的は、原告自身の広告宣伝のためであると主張する(なお、原告は、贈呈に係る相手方取引先の広告宣伝のためでもあり、その広告宣伝はひいて原告の宣伝ともなる旨主張するが、専ら取引の相手方の広告宣伝を目的として、右2のような効果を有する開店祝いの花輪等を贈呈するのであれば、そのための支出は交際費等にほかならないというべきであるから、原告の右主張は、要するに、原告に波及的間接的な宣伝効果が及ぶことを目的とするとの趣旨と解される。)。

しかしながら、交際目的と宣伝目的とは必ずしも相排斥する関係にはなく、自社の名を表示した花輪を贈呈するような行為は、交際目的だけでなく、宣伝目的をも併せもって行なわれることがむしろ通常であるともいえるが、そうであるとしても、その外形から客観的に判断される当該行為の主たる目的が交際のためであれば、これに係る費用はなお交際費等に当たるものと解される。したがって、右2のとおり、原告による花輪等の贈呈行為が祝賀の意思を表すことを主たる目的とすることが推認される以上、原告自身の宣伝目的をも併せ有していたというだけでは、本件花輪代を交際費等と解することの妨げとなるものではなく、本件花輪代が交際費等ではなく広告宣伝費に当たるとするためには、花輪等の贈呈の主たる目的が原告の広告宣伝であると客観的に判断され得るような外形的関係が存することが認められなければならない。

(二)  しかるところ、原告は、まず、原告が冷凍設備等の設計・施工をして改装あるいは新規開店をした食料品販売店等の店舗に、原告の商号を記載した花輪等を掲出することにより、その店舗の冷凍設備等を原告が設計・施工したことが分かり、これによって他の食料品販売店等にも原告の名前を知らしめ、将来の改装や新規開店に際して原告への発注を促すという効果を期待するものであると主張し、証人山崎昭哉の証言中には、右主張に沿って、原告においてどの程度の価格の花輪等を贈呈するかは、贈呈先店舗との取引高とは無関係に宣伝効果を考えて決定されたとか、店舗開店に際しては、他の同業者も訪れ、原告の社名を付した花輪等を見て冷凍設備等の工事を原告が施工したと分るとか、花輪等を掲出することにより近隣同業者から贈呈先店舗の改装の内容を問い合せてくることがあり、新たな商談につながることもあるとかと供述する部分がある。

しかしながら、右1のとおり、原告の購入贈呈する花輪等の代金は一基当たり概ね一万円ないし一万五〇〇〇円程度で、さほどの価格差がある訳ではない上、同証人自身、一万数千円位の花輪でそれほど効果があるようには期待していないとも供述するところであって、これらを併せ考えると、原告が贈呈する花輪の価格が宣伝効果まで考慮して決定されていたものとはにわかに認め難い。また、花輪等の掲出により近隣同業者から問い合せがある等の供述部分は、その問い合せの件数などの具体性を欠く上に、そのような問い合せ等と花輪の掲出との因果関係についても曖昧であって、これを直ちに措信することはできない。さらに、開店した店舗の同業者が原告の社名を付した花輪等を見て冷凍設備等の工事を原告が施工したと分るとの供述部分は、要するに、花輪等に原告の社名を付したことに伴う当然の効果をいうにすぎず、その程度であれば、右2のとおり、交際目的に付随する宣伝目的の域を出るものとはいえない。

(三)  また、原告は、原告が設計・施工した相手先店舗の開店に伴う宣伝手段として原告が花輪を掲出し、相手先店舗が繁盛すれば、他の食品販売店にも効果を及ぼし、繁盛している店舗と同じ設計・施工業者に発注しようという意欲を与えることとなって、ひいては原告の宣伝にもなるとも主張するが、そのような迂遠な因果関係の存在を認めるに足りる的確な証拠はない。

(四)  他に、原告の花輪等の贈呈行為が、主として、原告の広告宣伝を目的とすることを認めるに足りる証拠はない。そうすると、本件花輪代が交際費等に該当することを否定するに足りる特段の事情の存在を認めることはできない。

4  なお、証拠(甲第一一号証)及び弁論の全趣旨によれば、国税庁による昭和五二年五月一三日付け法人税課情報第一四号によって、パチンコ機メーカーがパチンコ店に贈呈する花輪等に要する費用(花輪代)につき、その支出がパチンコ機納入の際に行われるという実態に着目すれば、売上割戻しまたは販売奨励金としての性格を有するとも認められ、また、パチンコ店の場合は、パチンコ機の入替えに際して花輪等をその店頭に掲出することが客に対する宣伝上欠かせないものと認められるから、その意味において、パチンコ店における花輪等は一種の事業用資産とも考えられるので、パチンコ機メーカーが自ら定める支出基準に基づきパチンコ機の納入に際して支出する花輪代等については、売上割戻し又は販売促進の目的で事業用資産を交付するための費用を支出したものとして取扱うことが相当であるとする旨の取扱例が示されたことが認められるところ、原告は、そのような事情は、原告の業務においても全く同様に考えることができるものであり、したがって、本件花輪代についても、同様に取り扱うべきであると主張する。

しかしながら、原告の行なう花輪等の贈呈行為が、右取扱例に示されたパチンコ機メーカーの行なう花輪等の贈呈行為と同様、売上割戻し又は販売促進の目的で事業用資産を交付する場合に当たるとするためには、まず、原告が冷凍設備等の工事をする相手方店舗(食料品販売店等)において、花輪等を掲出する意義がパチンコ店の場合と同様であること、すなわち、その間に、新装ないし改装開店の頻度であるとか、その開店に際し花輪等を店頭に掲出することの宣伝上の不可欠性であるといった花輪等の掲出に係る主要な点につきほぼ変りないことが必要であるというべきところ、この点について首肯するに足りる証拠は何ら存在しない。のみならず、証拠(乙第一〇号証)及び弁論の全趣旨によれば、パチンコ店の場合には、その新装開店に際し、パチンコ機メーカーその他の取引先に何らの断りもなく、勝手にその名において花輪を注文してその店頭に掲出し、後日その花輪代の出捐を要求するという例が往々にして見られること、右の取扱例は、そのような業種・業態の特殊性に鑑みて、パチンコ機メーカーが自らの支出基準に基づいて、パチンコ機納入に際して支出する花輪代等については、これを交際費としない処理も是認され得るとしたものであることがそれぞれ認められるところ、原告のような冷凍設備等の工事業者とその工事の相手方である食料品販売店等との間に、花輪等の掲出を巡ってそのような関係のあることを認めるに足りる証拠もない。

そうすると、本件花輪代について、パチンコ機メーカーに係る右取扱例と同様の扱いをする根拠を欠くこととなるから、原告の右主張も採用できない。

5  右1ないし4によれば、本件花輪代は措置法六二条の交際費等に当たるものと認めることができる。

三  本件課税処分の適否

以上によれば、右第二の二の1のとおり、原告の本件事業年度の所得金額は三億五二三六万八五三七円、課税留保金額は四二七八万四〇〇〇円となるところ、本件更正に係る所得金額は右所得金額の範囲内であり、本件更正に係る課税留保金額は右課税留保金額と同額であるから、本件更正は適法である。

また、国税通則法六五条一項に則り、右更正に基づいてさらに納付すべき法人税額二四三万円(同法一一八条三項により一万円未満の端数切捨て)に一〇〇分の一〇の税率を乗じて得た額である二四万三〇〇〇円の過少申告加算税を賦課した本件賦課決定も適法である。

第四結語

以上によれば、原告の本件請求はいずれも理由がない。

(裁判官 荒川昂 石原直樹 小林直樹)

別表〈省略〉

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